【空想不動産 #003】トトロの草壁家、売るならいくら?本気で査定してみた

空想不動産

【空想不動産 #003】トトロの草壁家、売るならいくら?本気で査定してみた

空想不動産。

映画とかアニメとかに出てくる家を、現実の不動産屋が、勝手に売ってみる。そんなシリーズです。

第1回はハウルの動く城。建物が歩きました。第2回はラピュタ。今度は土地ごと飛びました。

もう、しんどい。

法務局とか国交省とか、最終的にUNESCOまで出てきました。なので今回は、普通の家にします。

『となりのトトロ』の草壁家。

いや、普通か?

まあ、少なくとも動かない。飛ばない。兵器もない。

最高です。

今回はちゃんと、アットホームに載せられそうです。

となりのトトロ 草壁家


まず、草壁家は実際に建っています

これ、知ってる人も多いと思います。

2005年の愛・地球博で、「サツキとメイの家」として本当に建てられました。

しかも、ただの映画セットじゃない。かなり本気です。

ジブリパーク公式でも、愛・地球博の際に「本物の家」として建てられたと紹介されています。大工さん、瓦職人、板金職人、左官、建具。そういう人たちがちゃんと入って、昭和初期に実際に存在していそうな家を本気で作っています。

つまり、ハリボテじゃない。家です。

やっと不動産屋の仕事ができます。うれしい。


延床約32.8坪

実在する「サツキとメイの家」は、延床面積108.4㎡、約32.8坪です。

意外と普通。超豪邸ではないです。

和室があって、洋間があって、お父さんの書斎があって、縁側があって、井戸があって、かまどがあって、お風呂がある。

今風に書くなら、3DK+洋室+書斎+小屋裏+庭くらいでしょうか。

ただし、システムキッチンはありません。食洗機もありません。浴室乾燥機もありません。

でも、かまどがあります。井戸があります。薪で沸かす風呂があります。

なんかもう、設備の方向性が真逆です。

草壁家のかまど


で、建築費が約3億円

ここから急におかしくなります。

2005年当時、建築費については約3億円と報じられています。

※当時報道された金額を参考にしています。純粋な住宅本体工事費だけを厳密に示した数字とは限りません。

32.8坪で3億円。単純計算すると、坪約915万円。

いや、高っ。

木造ですよ? 六本木のタワマンじゃないですよ? サツキとメイが走り回ってる家ですよ?

なのに坪900万円超。

どうした。

ちなみに下の写真は、昔実際に訪れた時のもの。現地調査です。

……ということにしておきます。

サツキとメイの家 現地写真


何にそんなに金が掛かっているのか

理由は簡単です。めちゃくちゃ手間が掛かっている。

普通の新築なら、新しいサッシ、新しい建具、新しい設備、新品の材料を使います。でも、この家は逆です。

新築なのに、古く見せないとダメ。

しかも「なんとなく昭和っぽい」ではダメです。本当に昭和初期にありそうな家にしないといけない。

昔っぽいガラス。昔っぽい瓦。昔っぽい建具。昔っぽい風呂。昔っぽい照明。昔っぽい家具。

もう全部です。

さらにジブリ公式の当時の記録を読むと、昭和初期の家を再現するため、プラスチック製品をなるべく使わないというレベルで作り込まれています。

雨樋まで、既製品を付けて終了ではありません。板金職人さんが鉄板から加工。

ホームセンターへ行って「これでいいか」が、ほぼ通用しない。

そりゃ金掛かるわ。

たぶん職人さんに「もうちょっと古く見せてください」って何回も言ったと思います。普通は「新築なんだからもっと綺麗にしてください」です。

逆です。

サツキとメイの家 洋館内部


本まで出ています

そして、『サツキとメイの家のつくり方』という本まであります。

これが面白い。

スタジオジブリ責任編集で、100点以上の写真、設計図、施工写真、建築レポート、実際に建築に携わった人たちの話まで残っています。

空想不動産としては異常に資料が豊富です。

ハウルのときなんて、「カルシファーは設備か?」から考えました。ラピュタなんて、飛行石のメーカーすら分からない。

今回は、図面があります。

ありがたい。

サツキとメイの家のつくり方

何だったら、立体模型もあります。

サツキとメイの家 立体模型


じゃあ、今同じものを作ったらいくら?

ここが本題です。

2005年で約3億円。今は2026年。建築費、上がってます。

建設物価調査会の建築費指数を見ても、木造住宅の工事原価は2015年を100とした指数からかなり上がっています。

木材も高い。人件費も高い。そして、この手の仕事ができる職人さんを集めるだけでも大変です。

しかも、この家は普通の木造住宅じゃない。

伝統工法、特注、手仕事、古材、古建具、古ガラス、鋳物、左官。

そういう、お金が掛かる言葉しか出てこない家です。

なので、私なら今まったく同じレベルで再現するとしたら、5億~6億円くらい見ます。

もちろん、これは正式な積算見積ではありません。当時費用、現在の建築費上昇、特殊施工、職人仕事などから考えた空想不動産としての再調達原価です。

真ん中取って、5億5,000万円。

高い。

でも、まあ、サツキとメイの家です。


次、土地

草壁家はどこにあるのか。

作品の舞台は一か所に限定されているわけではないですが、所沢・狭山丘陵周辺との関係はかなり有名です。

なので今回は、埼玉県所沢市大字松郷あたりにあることにします。

実際に松郷という地名もあります。

ここまで来ると、急に不動産っぽくなってきました。

稲荷前バス停


地価を見ます

2026年の地価公示には、ちょうど「所沢市大字松郷118番9外」という標準地があります。

価格は、141,000円/㎡。 坪にすると約46万円台。

普通の住宅地としては、そこそこです。

ちなみに国の鑑定評価書を見ると、この周辺で普通に供給される新築戸建の中心価格帯は、ざっくり3,000万円台半ば~4,000万円台半ばくらい。

そこへ草壁家。

6億8,000万円。

4,500万円の新築なら、15軒くらい買えます。

だから何だという話ですが。


草壁家に50坪はダメ

公示地の地積は約50坪くらいです。家だけ建てるなら入る。

でも、それじゃトトロ感がない。

必要なのは、庭、井戸、縁側、木、草、物干し、メイが走り回る空間。

そして、何かいそうな森。

隣に建売住宅。向かいにコインパーキング。その横にコンビニ。

これではダメです。

トトロが来ません。

たぶん。

サツキとメイの家 井戸


なので土地は166坪くらい欲しい

550㎡、約166坪。これくらいは欲しいです。

では電卓を叩きます。

141,000円 × 550㎡ = 77,550,000円。

約7,755万円。

まあ、土地7,500万円前後。そんな感じで見ます。

もちろん本当の査定なら、接道、形状、高低差、間口、造成、大規模地による単価修正など、色々見ます。

今回は空想不動産なので、そこは一旦置きます。


じゃあ6億2,500万円?

建物5億5,000万円。土地7,500万円。

合計、6億2,500万円。

はい。査定終わり。

……。

ではないです。


建築費と売れる値段は別

ここはちゃんとした話です。

5億円掛けて作ったから、5億円で売れる。とは限りません。

10億円掛けた家でも、欲しい人がいなければ10億円では売れません。

不動産って、結局、誰がいくらで買うか。です。

なので草壁家を、ただの古民家風の木造住宅として査定したら、そんな値段にはなりません。再調達原価が高いからといって、その全額を普通の住宅市場で回収できるわけでもありません。

でも、これは草壁家です。


本物の草壁家だったら話は変わる

ここが大事です。

「草壁家っぽい家」じゃない。本物の草壁家。という設定です。

あの縁側。あの台所。あの階段。あのお風呂。あの書斎。

全部ある。

世界に一つ。しかも、トトロ。

これはもう、普通の中古住宅じゃない。不動産+コレクターズアイテム。みたいなものです。

家を買うというより、世界観ごと買う。

そういう商品です。

サツキとメイの家 洋館部分


買う人は誰か

普通に所沢で家探ししている人じゃないです。

「予算4,500万円です」「4LDK希望です」「駅徒歩15分以内で」という人に、6億8,000万円の草壁家を紹介したら、怒られます。

買うのは、お金持ちのジブリファン。

国内だけじゃない。海外もありそうです。

この人たちは、所沢に住みたいんじゃない。

草壁家に住みたい。

ここです。


なので査定価格6億2,000万円

私は、査定価格6億2,000万円。

そして売出価格、6億8,000万円。

でいきます。

理由は、安く売る必要がないから。唯一無二です。急いで売らない。世界中から買主を探す。

売主には、「ちょっと強気で行きましょう」と言います。


そして、アットホームに出します

ついに来ました。第3回にして、アットホームに掲載できます。

ハウルは住所が動く。無理。

ラピュタは住所が空。無理。

草壁家。

住所ある。土地ある。建物ある。動かない。

最高。


物件概要

物件名
草壁家「サツキとメイの家」

価格
6億8,000万円

所在地
埼玉県所沢市大字松郷(想定)

土地面積
約550㎡(約166坪)

建物面積
108.4㎡(約32.8坪)

構造
木造2階建

間取り
3DK+洋室+書斎+小屋裏

設備
かまど/井戸/長州風呂/縁側/書斎/庭/井戸小屋

駐車場
2台可(予定)

備考
まっくろくろすけ現況有姿

駐車場、作ります。

6億8,000万円なので。


駐車場どうする問題

草壁家に、アルファード、レクサス、ゲレンデ。

ちょっと似合わない。でも買主はたぶん持ってます。

なので、家の前にカーポートをドーン。

これはやめます。

少し離した場所に砂利敷きで2台。木で少し隠す。

これでいきます。

世界観は守ります。


リフォームしたい?

買主。

「キッチンを最新のやつに変えたいです」

うーん。

「ユニットバスにしたいです」

うーん。

「全部フローリングにしたいです」

やめませんか?

この家、便利にすると価値が落ちる可能性があります。普通の家とは逆です。

もちろん、耐震、断熱、配管、電気。そのへんはちゃんとやる。

でも見えるところは残したい。

草壁家の場合、不便さも商品の一部です。


インスペクションは絶対やる

ここは真面目です。

売るなら建物状況調査はやります。床下、屋根、雨漏り、腐朽、シロアリ、基礎、配管。全部。

映画の中では大丈夫でも、現実の売買では確認します。

特に、サツキが「ボロ!」って言った柱。

あそこは見ます。

かなり見ます。

草壁家の柱

サツキとメイの家 現地写真


住宅ローンは?

今回、初めて銀行が話を聞いてくれます。

うれしい。

ハウルは担保建物が逃げる。ラピュタは担保土地が逃げる。

草壁家は、逃げません。

最高。

土地・建物として権利関係を整理できれば、抵当権を設定して融資を検討するという、ようやく普通の話ができます。

ただし、価格6億8,000万円。

今度は、買主の属性が足りない。

やっと普通の不動産問題になりました。


キャッチコピー

アットホームに載せるなら、ここ大事です。

写真。草壁家。青空。緑。

そして一言。

「あの夏に、住む。」

これです。

短い。ちょっと恥ずかしい。

でも、いい。


物件コメント

昭和初期の暮らしを再現した、和洋折衷の木造住宅。

縁側、井戸、かまど、長州風呂、書斎、小屋裏あり。広い庭には木々が残り、風が抜けます。

現代住宅にはない、音、匂い、光。そういうものまで含めて住む家です。

世界に一つ。内覧受付中。

※まっくろくろすけは現況有姿。


告知事項は?

買主から聞かれます。

「何か出ますか?」

うーん。

出ます。たぶん。

黒くて小さいのが。

でも、事故物件ではありません。たぶん。

重要事項説明書には、書かなくていいと思います。

たぶん。

まっくろくろすけ


実在の「サツキとメイの家」はもう20年以上

2005年に建てられたので、今はもう20年以上経っています。

これが面白い。

最初は、新築を古く見せて作った家。だったのに、今は本当に古くなってきた。

あと30年したら、昭和初期っぽく作った平成の家が、本当の古民家になっていきます。

なんかいいです。


結論。6億8,000万円で売ります

草壁家。

私の査定は、6億2,000万円。

売出価格、6億8,000万円。

です。

高い。

高いけど、まあ売れそうな気もする。

なぜなら、買う人は家を買うんじゃない。あの夏を買う。

そういう物件だからです。

となりのトトロ メイ

サツキとメイの家 縁側


空想不動産 #003

ハウルでは、不動産かどうかで揉めました。ラピュタでは、国まで出てきました。

草壁家。

やっと、普通に売れます。

なので早速、アットホーム掲載。

反響が入りました。電話です。

「6億8,000万円の家を見たんですが」

ありがとうございます。

「価格交渉できますか?」

……。

まず来てください。

縁側に座って、庭を見て、風に吹かれて。それから話しましょう。

たぶん、欲しくなります。


参考にした主な資料


※この記事について

本記事は、『となりのトトロ』に登場する草壁家を現実の不動産として売却すると仮定した「空想不動産」です。

実在する「サツキとメイの家」は2005年の愛・地球博で建築され、現在はジブリパーク「どんどこ森」で公開されています。

記事中の所在地、土地面積、査定価格、売出価格、買主像などは、実在資料、地価、建築費等を参考に設定した架空の査定です。実在する「サツキとメイの家」の市場価格を示すものではありません。

また、約3億円という建築費は当時の報道を参考にした数字であり、現在の再調達原価5~6億円および売出価格6億8,000万円は、「空想不動産」としての独自査定です。

なお、トトロ本体は売買対象に含みません。

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