【空想不動産 #001】ハウルの動く城を売買したい。そもそも、あれは不動産なのか?

映画やアニメを観ていると、たまに変なことが気になります。私は不動産屋なので、「この家、いくらくらいするんだろう?」「この立地、めちゃくちゃ高そうだな」「この物件、再建築できるのかな?」とか。
完全に職業病です。
そんなことを考えながらジブリ作品を観ていて、以前から気になっていた物件があります。ハウルの動く城。
いや、ちょっと待て。そもそも、あれは不動産なのか?
ということで、新シリーズを始めます。

- 「空想不動産」
- とりあえず「売り物件」になったと仮定する
- 法律上の「不動産」は意外とシンプル
- じゃあ「建物」ではないのか?
- トレーラーハウスとして考えればいいのでは?
- 「動けるけど動かせない」は定着なのか?
- では「車」として売ればいいのか?
- しかも飛ぶ
- 不動産登記も猛烈に困る
- ということで、私はこう売ります
- 引渡し条件も普通ではない
- 最大の問題「カルシファーは設備なのか?」
- まだあります。「あの扉」です
- 重要事項説明書を作ってみたい
- 事故が起きたら誰が責任を負うのか?
- 住宅ローンは……たぶん無理
- 結論。ハウルの動く城は「動産」として売りたい
- ただ、一番欲しいのは「あの扉」
- 空想不動産、始めます
- 参考にした主な法令・資料
- ※この記事について
「空想不動産」
存在しない物件を、存在する法律で本気で考えてみます。 記念すべき第1回は、ハウルの動く城を売買してみます。

とりあえず「売り物件」になったと仮定する
ある日、ハウルから電話が掛かってきたとします。「城を売りたいんですが」。分かりました。不動産屋ですので、とりあえず査定しましょう。

まず聞きます。「所在地を教えてください」
……。
ここで、もう詰みます。
所在地が変わる。というか歩く。しかも飛ぶ。普通の不動産なら、○○県○○市○○町123番地という土地があって、その上に建物があります。
ところがハウルの城の場合、朝起きたら昨日と違う場所にいる可能性があります。こんな物件をどうやって売ればいいのでしょうか。
とりあえず重要事項説明書を作ろうと思ったのですが、その前にもっと根本的な問題に気づきました。
「これ、不動産じゃなくて動産じゃないの?」
法律上の「不動産」は意外とシンプル
日本の民法では、不動産についてかなりシンプルに決められています。民法第86条。
土地及びその定着物は、不動産とする。
不動産以外の物は、すべて動産とする。
つまり大雑把に言えば、土地と、土地に定着しているものが不動産。 それ以外は動産です。
ではハウルの城を見てみます。土地に基礎を打って固定されているわけではありません。自分の脚で歩き、移動することを前提に作られ、必要に応じて飛びます。
めちゃくちゃ動産っぽい。
「動く城」というタイトルからして動産です。
ただし、ここは一応ちゃんとしておきます。もちろん「動くから動産」という法律ではありません。 重要なのは、土地に対する「定着性」です。
動けるかどうかだけではなく、その物が土地とどのような関係にあり、どのような状態で使用されているかを考える必要があります。
じゃあ「建物」ではないのか?
いやいや。中にはキッチンもある。寝室もある。浴室もある。人が普通に生活しています。

見た目こそ相当クセがありますが、利用実態としては完全に住宅です。となると、「住宅として使っているなら建物じゃないの?」と思います。
ところが建築基準法でいう「建築物」も、基本的には土地に定着する工作物であることが前提です。
ここでもまた、定着という言葉が出てきます。
ハウルの城は定着しているのか? していない。たぶん昨日いた場所にも、もういない。
非常に困ります。
トレーラーハウスとして考えればいいのでは?
ここで思いつくのがトレーラーハウスです。最近では住居や店舗として使われているトレーラーハウスも増えています。

「移動できる家なんだから、ハウルの城も似たようなものでは?」と思うのですが、これも簡単ではありません。
国土交通省はコンテナについて、随時かつ任意に移動できないものは、その形態や使用実態から建築物に該当するという考え方を示しています。
つまり「タイヤが付いているから建物ではありません」とは単純に言えないわけです。実際に移動できる状態なのか、土地に実質的に固定されていないか、ライフラインはどうなっているか、公道まで搬出できるのか。そういった実態も重要になります。
そこでハウルの城です。確かに歩けます。しかし、あの巨大な城が日本の住宅地に立っていた場合を想像してください。
敷地から公道に出られるのか?
無理でしょう。門扉どころの話ではありません。電柱全部引っ掛けます。 隣家も危ない。道路幅4メートルとか6メートルとか、そういうレベルの話ではありません。
そうなると「移動する能力はあるけれど、現実的にはこの土地から搬出できない」という、とんでもなく面倒な状態になります。
「動けるけど動かせない」は定着なのか?
ここが今回、一番面白いところです。
例えばハウルの城が500坪くらいの大きな土地に止まっていたとします。城そのものには脚がある。魔力さえあれば立ち上がって歩ける。でも道路が狭すぎて敷地から出られない。
これは、移動可能な物なのか? それとも、実質的に土地に定着している建築物なのか?
かなり悩ましい。
現実のトレーラーハウスなどでも、「随時かつ任意に移動できる状態かどうか」は重要な判断材料になります。
ハウルの場合、構造的には超移動可能。社会的には超移動困難。 という、法律が想定していない存在です。
では「車」として売ればいいのか?
歩くんだから車両扱い。これも考えました。ただ、どう考えても無理があります。
タイヤがありません。巨大な脚で歩きます。エンジンもありません。動力は、カルシファーです。

そもそも魔力は原動機なのか。私は宅建士なので、そこまでは分かりません。
国土交通省に電話して「火の悪魔を動力源とする大型歩行型住宅を登録したいのですが」と問い合わせても、おそらく担当部署が決まりません。
たらい回しになる未来しか見えません。
そして何より、あの大きさです。仮に何らかの車両として扱えたとしても、日本の公道を合法的に走行できるとは到底思えません。
しかも飛ぶ
さらに面倒なのがここです。ハウルの城は飛べます。

そうなると今度は航空法が出てきます。航空法では「航空機」を、人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器と定義しています。
ここで一つ注意したいのが、「人を乗せて空を飛ぶ物=すべて航空法上の航空機」ではないということです。
では、人を乗せて飛ぶハウルの城は航空法上どう整理されるのか? 飛行機ではありません。ヘリコプターでもありません。飛行船でもない。羽根のようなものが出ることもありますが、どう見ても通常の航空機ではありません。
航空局としても、「これは何ですか?」から話が始まると思います。
仮に航空機として何らかの規制を受けることになれば、登録は? 耐空証明は? 操縦資格は? 飛行計画は? 整備は誰がする? カルシファーはエンジンなのか?
次々と問題が発生します。
少なくとも「城を買ったので明日から自由に飛べますよ」とは、絶対に説明できません。
不動産登記も猛烈に困る
一般的な中古住宅を売るなら、土地と建物について登記があります。土地は土地、建物は建物。所有権移転登記をして、買主名義にします。
不動産登記法でも、不動産は「土地又は建物」とされています。
ではハウルの城を建物として登記するとします。所在地、○○市○○町123番地。
翌日、城、歩いて隣町へ。
登記上は○○町123番地。現物は△△町456番地。さらに翌日は山の上。週末には飛んでいる。
登記制度と相性が悪すぎます。
不動産登記は、そこにある土地や建物について権利関係を公示していく制度です。対象物そのものが勝手に移動されると非常に困ります。
ということで、私はこう売ります
ここまで考えて、私ならどうするか。おそらく一番現実的なのは、「土地」と「ハウルの城」を分けて売る方法です。
土地については通常の不動産売買。城本体については、特殊大型動産として別契約。
例えば売買価格が10億円だと仮定します。土地2億円、ハウルの城本体8億円。こんな感じで価格も分けます。
土地については通常通り所有権移転登記。城については動産売買として引き渡す。
ただし、土地だけ買った翌日、ハウルが城に乗って出て行った。
これでは買主が泣きます。
ですので、土地売買契約と城本体の売買契約を相互に不可分な契約として組み、片方だけ成立・存続してしまわないように契約関係を整理します。
引渡し条件も普通ではない
一般的な不動産なら「残代金支払いと同時に鍵等の引き渡しを行います」。ハウルの場合は、もう少し必要でしょう。
私なら最低でも、決済日時点で本件土地上に城が存在すること。 これを決済・引渡しの前提条件にします。
当たり前のようですが重要です。決済日の朝、「城がありません」では困ります。城が決済前に歩いて行ってしまった状態で、買主に残代金だけ支払ってもらうわけにはいきません。
そして、カルシファーによる動力供給が継続していること。 これも確認したい。
城だけ引き渡されても、カルシファーがいなくなって動かなくなったら、資産価値が全然違います。

最大の問題「カルシファーは設備なのか?」
ここまで来ると、もう避けて通れません。カルシファーです。
不動産売買では、エアコンや照明、給湯器などについて「これは売買対象に含まれます」「これは売主が撤去します」と設備表などで確認します。
だったらカルシファーも設備表に書けばいい。
……とはならないでしょう。
カルシファーには意思があります。会話もします。勝手に契約対象にして、「暖房設備一式 カルシファー1体」と書くのは、さすがに無理があります。
カルシファーそのものを「所有物」として売買できるのかという、さらに深い問題も出てきます。ですので私なら、カルシファー自体を売買対象にはしません。
例えば「本件城の引渡し後も、カルシファーから買主に対する動力供給が継続されること」を別の条件として考えます。
つまり、城=資産。カルシファー=動力供給事業者。 でしょうか。
ただし契約解除された瞬間、家が動かなくなる可能性があります。
電力会社より重要です。

まだあります。「あの扉」です
ハウルの城には、もう一つとんでもない設備があります。入口のドアです。
ダイヤルを回すと、扉の向こうの場所が変わります。これ、不動産屋からすると怖すぎます。
普通の住宅なら玄関を開けても道路があります。隣の家があります。せいぜい道路の向こう側にコンビニがあります。
ハウルの場合、玄関を開けると別の街です。
これは接道どころの話ではありません。
建築基準法では、原則として建築物の敷地は道路に一定以上接していなければならない、いわゆる接道のルールがあります。
でも、扉を回したら違う道路に接道します。
こんなの聞いたことがない。
しかも、その扉の向こう側の土地は誰の土地なのでしょうか。城を買ったからといって「扉の向こうの土地も買った」とは当然言えません。
ですので売買契約には、
魔法扉によって接続される場所について、売主は買主に対し所有権、賃借権その他一切の土地利用権を移転するものではない。
くらいは書いておきたい。
こんな特約、一生に一度しか作らないでしょう。
重要事項説明書を作ってみたい
さて。土地部分の仲介をする以上、宅建業者としては重要事項説明を考えなければなりません。
通常なら、登記、都市計画、用途地域、建ぺい率、容積率、道路、上下水道、法令上の制限などを説明します。
でも今回、一番重要なのはそこではありません。
私なら冒頭で言います。「最初に申し上げます。本物件、動きます。」
さらに「飛行する場合があります」「動力源は魔力です」「火の悪魔との契約状況により移動能力を喪失する可能性があります」。
重要事項が多すぎます。
買主から「南向きですか?」と聞かれても、向きは変わります。 「眺望は?」には移動先によります。 「駅から徒歩何分?」には城の方から駅へ行けます。 「接道は?」には扉次第です。
不動産営業泣かせにもほどがあります。
事故が起きたら誰が責任を負うのか?
ここもかなり重要です。例えば城が歩き出して隣の家を踏んだ。電柱を倒した。塀を壊した。飛行中に部品が落下した。
普通の住宅ではまず想定しない事故です。
ですから売買するなら、移動・飛行に伴う第三者への損害について誰が責任を負うのか、引渡し前後の責任分界点、城の操作方法、カルシファーとの契約、魔法設備の不具合。ここまで確認したい。
既存住宅の「雨漏りがあります」とは次元が違います。
住宅ローンは……たぶん無理
そして買主が「住宅ローンを使いたいです」と言った場合。
銀行担当者の顔が見てみたい。
住宅ローンでは通常、土地や建物に金融機関の抵当権を設定します。ところが担保にした建物が歩いていなくなる。
困ります。
「担保物件の所在を確認したところ、現在北へ向かって歩行中です」
こんな稟議は通らないと思います。さらに飛びます。金融機関からすると、担保不動産が自力で逃げる。
担保評価として最悪です。私なら現金購入をお願いしたいところです。
結論。ハウルの動く城は「動産」として売りたい
色々考えました。もちろん、実際にこんな物が存在しない以上、最終的には架空の法律談義です。
ただ、現在の日本法に無理やり当てはめるなら、私は、ハウルの動く城そのものは、原則として「動産」として扱う方向をまず検討します。
理由は、単に「動くから」ではありません。土地に定着することを本来の性質としていないと考えられるからです。
歩く。飛ぶ。移動する。むしろ、移動するための城です。
ただし、特定の土地に長期間置かれ、公道への搬出もできず、ライフライン等も固定されるような状態なら、建築基準法上「建築物」と評価される余地について別途検討しなければならないでしょう。
なので売買方法としては、土地=不動産売買、城=特殊大型動産売買。 この2本立て。そして両契約をセットにして同時決済。
これが今のところ、私なら一番採用したい方法です。
ただ、一番欲しいのは「あの扉」
ここまで売買方法について真面目に考えてきましたが、個人的に一番欲しい設備は城ではありません。あの扉です。
徳島から東京。徳島から京都。徳島から北海道。ダイヤルを回してドアを開けたら到着。
最高です。
ただし、不動産屋として最後に一つだけ言っておきます。その扉を設置した場合、接道については一度、役所と協議させてください。
たぶん担当者も困ると思います。
空想不動産、始めます
ということで、新シリーズ「空想不動産」。映画、アニメ、漫画、ゲームなどに登場する建物や土地を、現実の不動産屋が、現実の法律と不動産実務で本気で考えてみるというコーナーです。
存在しない物件だからこそ、真面目に考えると面白い。
次は何を売りましょうか。油屋? トトロの家? ラピュタ? ドラえもんの野比家? まだまだ、とんでもない物件が大量に控えています。
不動産屋としては、ラピュタだけはできれば担当したくありません。土地すらありませんから。
参考にした主な法令・資料
今回の「空想不動産」は架空の物件についての考察ですが、法律部分については、以下の現行法令・国土交通省資料を参考にしています。
- 民法(e-Gov法令検索) ※第86条「不動産及び動産」
- 建築基準法(e-Gov法令検索) ※第2条「建築物」の定義
- 国土交通省「コンテナを利用した建築物の取扱いについて」
- 航空法(e-Gov法令検索) ※第2条「航空機」の定義
- 不動産登記法(e-Gov法令検索)
※この記事について
本記事は、映画『ハウルの動く城』に登場する架空の建造物が現実の日本に存在した場合を想定した「空想不動産」としての考察記事です。実際の不動産取引に関する法律相談・法的見解を目的としたものではありません。
作品中の設定と現行日本法を組み合わせた、あくまで空想上の法的・不動産実務上の考察です。現実に自力歩行・飛行・空間移動能力を持つ巨大住宅を売買される場合は、国土交通省、法務局、特定行政庁、航空局および専門家等へご相談ください。
たぶん日本初の案件になります。


