アニメ盤ナウシカを見ていて、どうにも気になってた言葉。
トルメキア帝国、皇女(将軍)クシャナが風の谷の民に向けて行った演説の一節。
『我らは滅びに瀕した辺境の国々を統合し、この地に王道楽土を建設するために来た」
この演説シーンは漫画版には存在しません。
【王道楽土】
『王道楽土』この聴きなれない言葉。
前後の文脈もありなんとなく意味は伝わってきますが、正確にそれを述べる事はできませんでした。
後にこのアニメ以外で再びこの言葉を聞く事があり、その意味を知る事となります。
ある戦争ドキュメンタリーを見ていた時、満洲国建国のスローガンとなったのが「王道楽土」「五族協和」であるという事が述べられていました。
Wikipediaより引用
王道楽土(おうどうらくど)とは、1932年、満州国建国の際の理念。
アジア的理想国家(楽土)を、西洋の武による統治(覇道)ではなく東洋の徳による統治(王道)で造るという意味が込められている。なお、日本の歴史の教科書には、日本の政府が「王道によって治められる安楽な土地」と説明して、宣伝していたとしているものもある。
【日本の傀儡国家、満州国】
武力を使わず統治するという理念や民族の共栄などの元、日本の傀儡国家として一方的に建国された満州国ですが後に満州事変により戦火が広がり十数年で消滅しました。
余談になりすが、私の祖父は満州鉄道に就職し大連というとことで働いていたそうで当時は凄い稼ぎがあったそうです。
理念はあっても、現実にはそうならなかった「王道楽土」。
それは偽りの王道楽土。
中国人の人権を無視し多大な犠牲を強いて建国された満州国、終戦後に日本人約20万人が、ソ連や現地の暴徒による虐殺や病気、集団自決などで命を落としました。
(これだけ読むと負の連鎖しかいない)
ただ、民族協和も推進されて国を追われた人や祖国を失った人を受け入れたという光の部分もあったそうです。※プロパガンダだったとしても実際にそこが楽園となった人がいたことも事実です。
【クシャナの演説はアニメだけ】
王道楽土これを、トルメキア帝国の司令官が演説で述べる。
宮崎駿監督のことなので、狙ってそうさせている事でしょう。
クシャナのキャラをそこまで変えなくてもと心から思いますが、そうもいかない純然たる理由があったのでしょう。
【漫画版ナウシカとの比較】
ここで、漫画版「風の谷のナウシカ」についても触れておきます。
映画は漫画版ナウシカの1、2巻に相当します、全7巻で完結する漫画版を考えると映画が序盤にしかすぎません。
漫画が描かれた理由は、原作が無いアニメは当時珍しく企画が通らない。
それならばと、鈴木敏夫の半ば強引な手法「それじゃ漫画を出版すればいい」でアニメージュでの連載が始まります。
アニメが完成しても連載は続き、1993年に完結する。
映画の公開が1984年なので、完結まで映画の公開から10年弱の時間を費やした。
(94年び日本漫画家協会賞大賞を受賞している。)
そして、クシャナの描かれ方が全く違います!
アニメ版では、冷酷で自己中心的な振る舞いをみせているクシャナですが漫画では聡明な人物として描かれています。
非常に複雑で困難な立ち場ながら、時にはナウシカ以上に人を思い護り生きていこうとします。
なんと、コミックスでは表紙にもなっており人気はナウシカと二分する程です。
【アニメ版 ナウシカのテーマ】
では、なぜアニメではあのように描かれたのか?
(傍若無人で独りよがりな人物としての描写が多い)
答えは映画の尺では複雑なテーマを描けないとして、単純に敵・味方の区別をつける方向に舵を切ったからだと推察します。
そこは、宮崎駿監督がエンターテイメント性や観客の喜ぶ姿を考える人だからそういう方法に行かざるえなかったんだと想像します。
ナウシカをアニメシリーズにするなら別でしょうが、あの尺でやるならテーマも絞らないと何も伝わらない。
その時に、クシャナを敵とする描写とした方が描きやすいし伝わりやすかったんでしょう。
だから、クシャナに王道楽土を語らせたのだと思います。
反戦を訴えても結局のところ、武力を持ったトルメキアには服従せざる負えない構図。
戦争とは、事実そいう物でしょう。
なのに!?
物語をシンプルにしようとしているのに、事態を複雑化させているのが、、、、
オープニングに出てくる『WWF推薦』!?
いや、WWFの担当者よ原作を読んだのか?
『これ、自然を大切にしようとか言う陳腐な物語でありません!!』
アニメ版で無理やり作ったエンディング!
蟲との和解と再生みたいなことで終わっていくストーリー。
最後はペジテ市の住人達を風の谷の人が笑って、新しい国づくりをしているようなイメージカット。。。
ありゃ、自然の調和や和解を描いたように見えてしまう。
(アニメ版の構成)
・巨神兵の争奪戦!
・戦争に蟲によるテロが計画され失敗。
・蟲がブチ切れ!!(大地の怒り)
・巨神兵のぶっ壊れる。
・ナウシカが蟲を沈める。
(基本的には全て戦争で事が起こっており、蟲や腐海は世界のファンタジー要素)
つまり、どちらかといと戦争が主旋です。
完全懲悪的構成で物語が進みがちですが、ナウシカを人として表現している部分はちゃんとあります。
王である父を殺されたナウシカが怒りにまかせて、トルメキア兵を殺していきます。
(ユパが止めるまで、戦いをやめようとしません。)
かなりヤバいです、やり過ぎ感・・・・
そもそも、物語は世界最終戦争(火の七日間)で始まります。
巨神兵は本当に超巨大です!
知性を持っているしデカイ、『シン・ゴジラ』よりヤバいの確定です。
ペジテのテロも考えみれば、人道を顧みない作戦です。
蟲に襲わせて敵対勢力の全滅を狙ってる。
アニメで描かれているのは、戦争の恐怖と混沌です。
だから、ナウシカが敵を殺すシーンが必要だったのかも知れません。
聖女のようなナウシカでさえ、そうなってしまう。
しっかりと戦争という物の喪失や無力感そして恐怖は織り込まれています。
そんな物語だから子供向けとしては、蟲と腐海を入れる事でオブラートに包んでるよに思えます。
|本当の恐怖の先にある希望|
ここまでは、映画の話をしてきました。
映画は反戦がテーマになっていましたが、漫画版はもっと奥深く幅広く世界を見ています。
ナウシカも読者もその世界が何なのか?
何故、そこで生きるのか?
何故、戦うのか?
誰が敵なのか?
巨神兵とは何か?
ずっと、迷いながらストーリーが進行してきます。
それが、ある時ぱっと晴れ間が訪れ、目的やなすべき事が見えてくる。
映画「もののけ姫」の混沌と類似する部分があります。
そう、混沌の先が、、、、、
恐怖しかない!?
こんな事をどう受けとめて良いかわからない。。。。
それでも希望を持って生きていけるのか?
自然を守とかそういった類の範疇に収まらない、ファンタジー世界ですが超リアルなエンディングを迎える事になります。
ネタバレになるので書けない・・・・・
ぜひ、ナウシカがいかに恐怖を乗り越えたか漫画版で確認してください。
私は、その衝撃的展開に本当に数時間呆然として、その事ばかりを1日考えちゃいました。