「誰も住まなくなった家。売るのも、壊すのも、なんだかふんぎりがつかなくて……」
空き家のご相談を受けていると、こんなお声をよく聞きます。
思い出のつまった家だからこそ、すぐに答えが出なくて当然ですよね。
そんな空き家に、もう一度、地域で必要とされる場所になってもらう。
いま徳島県で、そんな取り組みが進んでいます。
県の「空き家5(ファイブ)戦略事業」。
その第2回の募集が、2026年11月6日にはじまりました。
先に、ポイントだけ
- 空き家を宿・カフェ・子育ての場などに改修して、“お手本”をつくる事業者を募集中
- 1棟あたり、業務料が最大100万円+改修費の補助が最大500万円(3分の2以内)
- 参加申込は12月16日(水)17時まで。審査書類は2027年1月5日(火)17時まで
この記事では、制度のしくみと、これまでに選ばれた事例、そこから見えてきた“選ばれるポイント”を、不動産屋の目線でまとめてみました。
「空き家5(ファイブ)戦略事業」ってなに?
徳島県の空き家率は21.3%。全国平均の13.8%を、大きく上回っています。
数にすると、県内でおよそ8万3,000戸。だいたい5軒に1軒が空き家、という計算です。
この事業は、県庁の部局の垣根をこえて、県内の全市町村と連携しながら進めている「空き家5(ファイブ)戦略」のひとつ。
空き家を実際に改修して活用する民間の事業者を選び、
- どうやって物件を選んだのか
- どんな改修をして、いくらかかったのか
- 運営でどんな工夫をしたのか
- やってみて、どんな課題があったのか
を、報告書と動画にまとめてもらいます。それを県が“先導事例”として発信していきます。
つまり、「空き家って、こんなふうに使えるんだ!」というお手本を、県内のあちこちにつくっていく事業なんです。
テーマは3つあります。
- テーマ1【観光×空き家】(目安3棟)
宿泊施設、分散型ホテル、カフェ・レストランなど - テーマ2【人材確保×空き家】(目安2棟)
学生・教職員向けの住まい、シェアオフィス、就労支援施設など - テーマ3【人口減少×空き家】(目安3棟)
子育て世帯向けの住まい、子育て支援施設、子ども食堂など
出典:徳島県「令和8年度 空き家5(ファイブ)戦略事業利活用モデル業務(第2回)募集要領」、同フライヤー、Airbnb Japan「Airbnb Japanと徳島県が、連携協定を締結」
支援は「業務料」と「改修費の補助」の2本立て
| 1棟あたりの上限 | どんなお金? | |
|---|---|---|
| 業務料 | 100万円 | 報告書や動画づくりなど、“お手本としてまとめるお仕事”の対価 |
| 改修工事費の補助 | 500万円 (補助対象経費の3分の2以内) |
空き家の改修工事にかかる費用の補助 |
たとえば改修費が750万円なら、補助は500万円。のこりの250万円が自己負担、というイメージです。
不動産屋としてちょっと注目したいのが、補助を受けられるのは、空き家の所有者だけではないということ。
管理している人や、借りている人も対象になります。
「持ち主さんから借りて、改修して、お店をはじめる」という形も考えられるんですね。
そのかわり、補助を受けたら、工事が終わってから10年間は、目的に合った施設として使い続けることが条件です。
もらって終わり、ではなく、地域で長く育てていく制度なんです。
採択されたあとは、県が定めるアドバイザーの意見を聞きながら進めます。
県は2025年8月にAirbnb Japanと連携協定を結んでいて、Airbnbがこの事業のアドバイザーを務めています。
出典:徳島県「徳島県空き家5(ファイブ)戦略モデル事業補助金交付要綱」
これまでに生まれた“空き家のその後”
令和7年度:8件が、次々とオープン
初年度は、9チームから10件の提案があり、7チーム・8件が選ばれました。
そして2026年の春から秋にかけて、ひとつ、またひとつとオープンしています。
- 第1弾|神山町「のまのま」
農業用の空き倉庫が、親子で楽しめるボルダリング&フィットネスジムに(5月オープン) - 第2弾|徳島市「親子ほっとステーションHIKARI」
1階は「お結びカフェ」、2階は0〜2歳児連れ専用の親子カフェ(6月グランドオープン) - 第3弾|牟岐町・出羽島「くすり 富山堂」
島に、薬屋さんが。薬膳料理の教室もひらかれます(5月オープン) - 第4弾|那賀町「リトリートNAKA」
日常から少し離れて、心と体を整えるための宿(5月末から宿泊受付) - 第5・6弾|吉野川市「歩歩(ほほ)」とジビエ処理施設
築120年をこえる古民家で、ジビエや地元の野菜を使った料理を。シカやイノシシの処理施設も併設されています(6月オープン) - 第7弾|農風景のお宿「Stay / Cafe / Atelier 夜半へ」
暮らしと世代を引き継ぐ、農のある風景のお宿 - 第8弾|鳴門市「NARUTO 酒蔵ホテルプロジェクト」
本家松浦酒造場の、築270年の母屋の離れが“泊まれる酒蔵”に(9月から宿泊受付)
ジム、カフェ、薬屋さん、宿、レストラン、そして酒蔵ホテル。
「空き家活用=民泊」だけじゃないんだなぁと、あらためて思います。
出典:日経BP 新・公民連携最前線(2026年5月21日)、徳島新聞デジタル(第1弾・第2・3弾・第4弾・第5・6弾・第7・8弾)
令和8年度(第1回):25件の提案から、8件が選ばれました
2年目の募集では、提案の数が25件に。前の年の10件から、2.5倍です。
2026年7月に、次の8件が選ばれました。
| テーマ | 内容 | 場所 | チーム名 |
|---|---|---|---|
| 観光 | 出羽島にもんてこい | 牟岐町 | 出羽島文化財保存会 |
| 観光 | 本屋さんのない地域で、古民家を生かした滞在型の観光拠点 | 勝浦町 | 四方山-「人と世界が出会う」本と滞在のプロジェクト |
| 観光 | 民泊・店舗 | 那賀町 | わじき・にぎわい再生プロジェクト |
| 人材確保 | 木頭柚子の就農者のための住まい | 那賀町 | 木頭柚子就農者促進居住整備プロジェクト |
| 人材確保 | 特定技能の外国人材を受け入れ、地域と共生するモデル | 徳島市 | 徳島モデル|空き家×外国人ドライバー(特定技能)共創コンソーシアム |
| 人口減少 | 親子で集う、カフェ×子どもアトリエ「Gyuuusha(仮称)」 | 神山町 | 神領の谷 棚田集落再生プロジェクト |
| 人口減少 | 子育て世帯向けの“お試し”賃貸住宅 | 神山町 | 神山家守プロジェクト |
| 人口減少 | 大道まちなかまなびBASE | 鳴門市 | 大道銀天街まちなかBASEチーム |
「もんてこい」は、阿波弁で「帰っておいで」。
……もう、タイトルだけで、ぐっときますね。
こちらの8件は、これから順番に形になっていく予定です。
出典:徳島県「令和8年度空き家5(ファイブ)戦略事業利活用モデル業務 公募型プロポーザルにおける優秀提案者一覧」(「内容」は読みやすく言い換えた箇所があります)
採択例から見えた、3つのポイント
ここからは、公表されている採択例を見て、わたしなりに感じたことです。
1. 「この地域に足りないもの」がはっきりしている
本屋さんのない地域に、本と滞在の拠点を。
柚子農家になりたい人に、住まいを。
外国人のドライバーさんに、暮らしの場を。
島に、薬屋さんを。
どの提案も「この地域には、これが足りない」がとても具体的です。
審査でも「地域への具体的な波及効果」や「施設を続けて運営できるか(収支の見込み)」が見られます。
“空き家をどう直すか”より先に、“この場所に何があったら、みんながうれしいか”。
そこから考えるのが、いちばんの近道なのかもしれません。
2. 建物は「住宅」じゃなくてもいい
農業用の倉庫、酒蔵の離れ、築120年をこえる古民家……。
対象は、空き家(住宅)だけではありません。使われなくなった建物(空き建築物)も含まれますし、住宅の「離れ」も対象になります。
「うちの倉庫、もう何年も使ってないけど……」
そんな建物も、候補になるかもしれません。
3. まだ事例のない市町村だと「加点」
審査項目には「事業実施地域の広域性」があります。
これまでの採択案件と違う市町村で実施すると、加点評価になります。
これまでの採択地には、神山町・那賀町・牟岐町・鳴門市・徳島市・吉野川市・勝浦町などがあります。
同じ市町村でも応募はできますが、まだ事例のない地域には、大きなチャンスがありそうです。
ちなみに県は、市町村などに聞いた「利活用の候補調査」も公開しています。
たとえば観光のテーマでは、三好市や美波町が「具体的に改修できる空き家の候補がある」と回答しています。
ここに載っていない地域でも応募できますが、アイデアのヒントになりそうです。
出典:徳島県「空き家5(ファイブ)戦略事業利活用モデル業務 FAQ(令和8年11月版)」、同「R8利活用候補調査」
応募の前に、チェックしておきたいこと
- 建物全体が使われていないこと。そして、元の用途に戻る見込みがないこと(すでに使っている建物や、国・県・市町村が持っている建物は対象外)
- 空き家1棟につき1件。テーマも1つにしぼって応募します(第2回からの変更点です)
- 個人でも応募できますが、県は複数の会社や個人でつくるチーム(コンソーシアム)での実施を想定しています
- 県内に本社や事業所があるなど、緊急時に対応できる体制が必要です
- 補助金を使うには、空き家がある市町村の「空家等対策計画」に改修の用途が書かれている必要がある場合も。まずは市町村の空き家担当に確認しておくと安心です
- 改修工事も、報告書・動画づくりも、2027年9月30日までに完了が原則。開業をとりやめると、業務料も補助金も支払われません
- 報告書や動画は、県のホームページやSNSで公開されます
- 耐震性は条件ではありませんが、10年以上使う施設なので、耐震改修がすすめられています(市町村の補助も活用できます)
- 補助の対象になる経費が重ならなければ、ほかの補助制度とあわせて使うこともできます
ちなみに、チーム名には会社名を使わず、「○○地域を元気にするチーム」のように、目標や想いが伝わる名前(30文字以内が目安)をつけるルールなんだそう。
採択されたチーム名を見ているだけでも、なんだか楽しくなってきます。
スケジュール
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 11月18日(水)〜30日(月) | 質問の受付(メール) |
| 12月7日(月) | 質問への回答を公表 |
| 12月16日(水)17時 | 参加申込のしめきり |
| 2027年1月5日(火)17時 | 審査書類のしめきり(持参か特定記録郵便のみ) |
| 1月27日(水) | 選定委員会による審査(予定) |
| 1月28日(木) | 審査結果の通知・公表(予定) |
| 2月3日(水) | 採択事業者向けの説明会(予定) |
| 3月31日(水)まで | 業務の契約、補助金の交付決定(予定) |
企画提案書は、A3で2枚以内。改修したあとの間取りがわかる平面図も必要です。
迷ったときの進め方
「気になるけど、何からはじめたらいいの?」という方は、こんな順番で考えてみてください。
- 建物の「いま」を知る
誰の名義か、いつから使っていないか、傷みや雨もりはないか - 市町村の空き家担当に相談する
空家等対策計画のこと、ほかに使える補助のこと - 「この場所に何があったらうれしいか」を考える
地域に足りないものは何だろう? - いっしょにやる仲間をさがす
運営する人、設計や工事をする人、そして持ち主さん - お金と時間をざっくり見通す
改修費の3分の1は自己負担。10年続けられるかな? - 12月16日までに参加申込
徳島市末広の不動産店「カエルーム」でも、空き家のご相談をお受けしています。
「応募するかは、まだわからない」
「そもそも、うちの空き家って使えるの?」
そんな段階でも、だいじょうぶです。一緒に考えていきましょう。
さいごに
誰にも使われなくなった家にも、もう一度、だれかに必要とされる日がくる。
ボルダリングの壁に子どもたちの声がひびいて、
お結びカフェに、赤ちゃん連れのママが集まって、
270年の酒蔵で、旅の人がゆっくり眠る。
空き家に、もう一度、恋をしてもらう。
そんな物語が、いま徳島のあちこちで、はじまっています。
次の物語の舞台は、あなたの町の、あの空き家かもしれません。
制度・参考資料について
この記事は、2026年11月7日時点で公表されている県の資料と報道をもとにまとめています。条件や日程は変わることがあるので、応募するときは必ず県の募集要領・FAQで確認してください。
令和7年度の採択例は、報道をもとにしています。オープン時期は報道時点のものです。
問い合わせ先:徳島県 県土整備部 住宅課 民間住宅支援担当(電話 088-621-2597/メール juutakuka@pref.tokushima.lg.jp)


