帝国データバンクから、ちょっと気になる数字が発表されました。
2026年1月から8月までの「不動産代理・仲介業」の倒産は86件。このままのペースで進めば年間約130件となり、過去最多だった2025年の133件に迫る水準だそうです。
しかも、倒産した会社のうち負債5,000万円未満が60件。全体の69.8%を占めています。
大きな不動産会社がドーンと倒れているというより、小さな不動産会社が静かに消えている。そんな数字にも見えます。
でも、不動産会社そのものは増えています
ここが少し不思議なところです。
不動産会社の倒産が増えていると聞けば、「不動産業界そのものが縮小しているのでは?」と思ってしまいます。
ところが、2025年3月末時点の宅建業者数は13万2,291業者で、11年連続の増加。法人業者も11万9,902業者となり、前年より1.8%増えています。
つまり、不動産屋は増えている。でも、不動産屋は倒れている。
帝国データバンクは、新規参入による競争激化で一定の淘汰が進んでいると分析しています。さらに、オンライン内見やAIなどを活用した不動産情報サイトを展開する大手と、DXへの投資が難しい中小零細事業者との間で「顧客獲得の格差」が広がっている可能性も指摘しています。
僕は、今回のニュースで一番気になったのはここでした。
不動産業界の「競争のルール」が変わっている
以前の不動産会社の強さは、比較的わかりやすいものでした。駅前に店舗がある。営業マンが多い。看板をたくさん出す。SUUMOやアットホームに大量の物件を掲載する。
もちろん、今でもこれらは重要です。でも、それだけではなくなってきました。
ホームページ、SNS、動画、ブログ、オンライン接客、顧客データ、自動追客、そして生成AI。お客様と出会う場所そのものが増え、不動産会社の仕事が少しずつ「店舗の中」から外へ広がっています。
帝国データバンクが倒産動向のレポートの中でDXによる顧客獲得格差にまで触れているのは、その変化が数字にも表れ始めているからなのかもしれません。
「AIバブル」という言葉には、少し違和感があります
少し話はそれます。
先日、某テレビ局を見ていると、現在のAI関連投資や株価上昇について「AIバブル」という表現が使われていました。
もちろん、株価が実態以上に上がることはあります。AIという名前が付いているだけで過大に評価される企業も出てくるでしょうし、現在行われている巨額投資のすべてが成功するとも思いません。
ただ僕は、AIという産業の成長そのものを「バブル」とひとまとめにしてしまうことには、少し違和感があります。
昔、「インターネット・バブル」という言葉がありました
1990年代後半から2000年頃、インターネット関連企業へ大量の資金が流れ込み、株価が急上昇しました。そして、その後大きく下落しました。
企業評価や株価には、確かに大きな過熱がありました。
でも、インターネットそのものは消えませんでした。
Amazonで買い物をして、Googleで検索し、YouTubeを見て、SNSで人とつながり、スマートフォンで仕事をする。今では、インターネットがない社会のほうが想像できません。
つまり、インターネットという技術や産業の成長が間違っていたのではなく、その未来を先回りしすぎた企業評価や資金の流れに過熱があった。
僕はAIについても、似たところがあるのではないかと思っています。
AIには、すでに実際の需要があります
現在のAI投資は、「いつかAIというものが普及するらしい」という期待だけで動いているわけではありません。
半導体が必要になり、AIサーバーやデータセンターへの投資が増え、電力やネットワークへの需要も生まれています。そして企業では、実際の仕事の中にAIが入り始めています。
BIS(国際決済銀行)も2026年のレポートで、AI関連投資が急増し、経済成長にも相当な影響を与えていると分析しています。一方で、巨額の投資を正当化するだけの収益が将来本当に生まれるのかというリスクについても指摘しています。
つまり、AI関連企業の株価が高すぎるかどうかと、AIという技術が実際に成長しているかどうかは、分けて考えたほうがいい。
市場価格の調整と、AIという技術や産業の成長は別の話です。
ここを全部まとめて「AIバブル」と呼んでしまうと、今起きている産業構造の変化まで見誤ってしまう気がしています。
そして、その変化はすでに不動産業界にも入り始めています。
小さな不動産会社には厳しい時代なのか
帝国データバンクは、大手と中小零細事業者のDX格差を指摘しています。
確かに、大手不動産会社には資金があります。システム開発にも広告にも人材にもお金を使えます。小さな会社が真正面から同じことをやれば、まず勝てません。
でも、ここには少し面白い変化もあります。
生成AIによって、これまで高価だった「デジタルの道具」が、小さな会社でも使えるようになってきたからです。
昔なら外注しなければできなかったことを、自分でできるようになってきました。記事を書く。画像を作る。動画を作る。データを分析する。プログラムを書く。問い合わせ内容を整理する。お客様ごとに違う情報を届ける。
少し前なら「そんなこと、小さな不動産屋には無理です」で終わっていたことが、少人数でもできるようになりつつあります。
そう考えると、これからの不動産業界は単純な「大手 vs 中小」だけではないのかもしれません。
小さいからこそ、できることもある
僕自身、小さな不動産会社を運営しています。だから今回の倒産ニュースは、もちろん他人事ではありません。
資本力では大手に勝てません。広告費でも、人の数でも勝てません。そこは、どうやっても無理です(笑)。
だったら、違うところで戦うしかありません。
地域について詳しくなる。誰も書かない情報を書く。ブログを積み上げる。SNSを使う。AIを使う。できるところから自動化する。
そして、大きな会社ではなかなか作りにくい、「この店、なんだか面白いな」を作る。
生成AIは大企業をさらに強くする技術である一方で、今まで大企業しか持てなかったような道具を、小さな会社にも開放する技術でもあると思っています。
もしかすると小さな会社にとっては、危機であると同時に、かなり大きなチャンスなのかもしれません。
本当に怖いのは、倒産件数ではないのかもしれない
2026年1月から8月までに、不動産代理・仲介業の倒産が86件。
数字だけを見れば、「不動産屋も大変だな」で終わるニュースです。
でも、その背景に競争激化やDXによる顧客獲得格差があると考えると、少し違って見えてきます。
僕が本当に怖いのは、AI関連の株価が上がることでも下がることでもありません。
数年後に「あの頃、AIって騒いでたね」と言いながら、自分の会社だけ何も変わっていないことです。
今回発表された「倒産86件」という数字は、単なる景気のニュースではなく、もしかすると不動産業界の競争ルールが変わり始めている数字なのかもしれません。
小さな不動産屋は、これからどうするのか。
僕はとりあえず今日も、AIと一緒に仕事をしてみます。
まだ、いろいろ試せる今のうちに。
参考資料
- 帝国データバンク「不動産代理・仲介業の倒産動向(2026年1-8月)」(2026年9月8日)

